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信頼度ランク

S 公式ソース確認済み
A 成功実績多数・失敗例少数
B 賛否両論
C 動作未確認・セキュリティリスク高
Z 個人所感

WordPress 7.0 リアルタイム共同編集が直前撤回——レースコンディション・メモリ効率・WP Engine訴訟が絡む舞台裏

WordPress 7.0(2026/5/20リリース予定)でリアルタイム共同編集(RTC)がRC3直前に削除された。技術的欠陥に訴訟が絡む複雑な経緯と、開発者が今知るべきことを解説。

一言結論

Matt Mullenweg がリリース12日前に WordPress 7.0 からRTCコード全体を削除。レースコンディション・サーバー負荷・メモリ効率の未解決問題が技術的理由だが、WP Engine訴訟との関連を匂わせる発言がコミュニティに波紋を呼んでいる。RTCは7.1サイクルで再評価予定。

何が起きたか

2026年5月8日、WordPress 7.0のリリース候補(RC3)が公開されたが、目玉機能として予告されていた**リアルタイム共同編集(Real-Time Collaboration / RTC)**が完全に削除された状態で届いた。

WordPress 7.0 リリーススケジュール(2026年):
  本番リリース:   2026年5月20日(予定)
  RC1:           2026年4月29日
  RC2:           2026年5月5日
  RC3:           2026年5月12日(RTCなし)

削除決定日:     2026年5月8日(リリース12日前)
決定者:         Matt Mullenweg(WordPress 共同創業者)
RTCコードの扱い: 単なる無効化ではなく、全コードをコアから削除

RTC とは何だったのか

リアルタイム共同編集は、Google ドキュメントのような同時編集体験 をWordPressのブロックエディタ(Gutenberg)で実現するものだった。

RTC が実現するはずだったこと:
  ✅ 複数のユーザーが同じ投稿・ページを同時編集
  ✅ リアルタイムカーソル表示(誰がどこを編集中か見える)
  ✅ プレゼンスインジケーター(オンラインユーザーの表示)
  ✅ 競合のないマージ(同じ段落への同時入力を処理)

開発期間:        約2年(Gutenberg プロジェクトの主要投資領域)
対応アーキテクチャ: カスタムテーブル + トランジェント方式を採用

技術的な問題の詳細

パフォーマンステスト結果

2026年4月29日〜5月4日にかけて、8つのホスティング環境で性能テストが実施された。

テスト対象ストレージ戦略(3種):
  1. post-meta(既存実装)
  2. カスタムテーブル単独
  3. カスタムテーブル + トランジェント(最終採用候補)

結果:
  カスタムテーブル + トランジェント:
    → 7環境中6環境で1位または同率1位
    → post-meta比 約52%高速
    → 持続的オブジェクトキャッシュがある場合:
      ディスパッチあたりDBクエリ = 1回に削減

  カスタムテーブル単独:
    → post-meta比 約37%高速

テスト自体は「カスタムテーブル + トランジェント」が優勝したが、それでもMullenweg は削除を決断した。

3つの未解決問題

問題 1: レースコンディション
  - 2人のユーザーが同じ段落を同時に編集した場合の競合解決
  - どちらの編集が「勝つ」か、マージはどう行うかが
    フォーマル検証不足
  - サイレントなコンテンツ破壊が起きるリスクが残っていた

問題 2: サーバー負荷・メモリ効率
  - 長時間セッションでのメモリ使用量が想定より高い
  - ホスティング環境によって挙動が大きく異なる
  - 低スペックの共有ホスティングでの影響が未評価

問題 3: ファズテストで見つかった繰り返すバグ
  - WebSocket のエッジケースで再現するクラッシュ
  - リリース12日前の時点でroot cause が特定されていなかった

Matt Mullenweg の発言と WP Engine 訴訟

Mullenweg の削除発表には、技術的理由に加えて訴訟への言及が含まれており、コミュニティに波紋を広げた。

Matt の声明(要旨):
  「現在のアプローチがコアに含めるに十分に堅牢であると
   自信を持てない。また、WP Engine との訴訟において、
   この機能がWordPress.com の差別化要素として利用される
   可能性についても懸念がある」

この発言は技術的な理由と商業的・法的理由が混在したものとして批判された。

コミュニティの反応:
  ❌ 「技術的な問題なら訴訟に言及する必要はないはず」
  ❌ 「WP Engine との競争を意識した恣意的な削除では?」
  ✅ 「ファズテストの未解決バグは事実であり、削除は正当」
  ✅ 「ベータで出すより削除して7.1で完成させる方が正直」

WP Engine 訴訟の背景:
  - WordPress商標をめぐる争い(2025年〜継続中)
  - WP Engine はWordPressのフォーク・商用利用で争点
  - RTCがWordPress.com(Automattic)の有料機能になるとの
    観測がコミュニティ内に存在していた

重要な注意: WP Engine 訴訟とRTC削除の直接的な因果関係は証明されていない。技術的欠陥が主因であり、訴訟への言及は Mullenweg 個人の見解として読むべきだ。


WordPress 7.0 に含まれる機能(RTCなし)

RTC は消えたが、WordPress 7.0 は他の機能を含む。

7.0 で追加される主な機能:
  ✅ サイトエディター: Design > Identity パネルに
    サイトタイトル・タグラインが直接表示
  ✅ Accordion ブロックに Dimension コントロール追加
  ✅ ブロックエディターの全般的なパフォーマンス改善
  ✅ PHP 8.3 サポート強化
  ✅ セキュリティ改善(WP_HTTP_Requests_Response ほか)

7.0 でのリアルタイム関連の状態:
  ❌ RTCコードは RC3 でコアから全削除
  ❌ 単なる機能フラグOFF ではなく、コード自体が存在しない
  → 7.1 サイクルで再実装・再評価の計画

WordPress サイト・プラグイン開発者への影響

今すぐ対応が必要な変更:
  なし(RTCは出荷されなかったため破壊的変更はない)

7.0 アップグレード前に確認すべき点:
  □ PHP 8.3 との互換性(使用プラグインが未対応の場合あり)
  □ カスタムブロックが Dimension コントロールAPIに対応しているか
  □ WP_HTTP_Requests_Response を使用したカスタムコードの確認

RTCを期待して開発計画を立てていた場合:
  → 7.1(2026年秋ごろ予想)まで待つ必要がある
  → 独自実装を考えている場合: Yjs + Y-WebSocket など
    外部OTライブラリを使った実装が現実的な選択肢

なぜ「リリース直前の撤回」は珍しくないのか

WordPress のリリースプロセスでは、RC 段階での重大な問題発見による機能撤回は過去にも起きている。

過去の直前撤回事例:
  WordPress 5.0: カスタムフィールドUIの一部が RC直前に無効化
  WordPress 6.1: パフォーマンス改善の一部ロジックを差し戻し

今回の違い:
  - RTCはプロジェクト全体で最も大きな単一機能だった
  - 開発期間 2年、複数の外部チームが統合テストに参加
  - コードベースへの影響範囲が他の撤回事例より大きい

落とし穴・注意点

  • 7.1 でのRTC再導入は保証されていない: 「7.1サイクルで再評価」という表現に注目。再評価であり、確約ではない。訴訟の展開次第で状況が変わる可能性がある
  • 「カスタムテーブル + トランジェント」の実装は今後も使われる: パフォーマンステストで優秀な結果を出した実装は捨てられていない。今後のベースになる見通し
  • RTCの代替として Gutenberg Collab プラグインに注目: コミュニティ主導の外部プラグインとして開発が継続するとの情報があるが、公式サポートではない

まとめ・参考リンク

WordPress 7.0 はRTCなしで2026年5月20日にリリースされる。技術的な未解決問題(レースコンディション、ファズテストバグ)が主因だが、WP Engine 訴訟への言及がコミュニティの不信感を高めている。開発者はRC3以降のアップグレードに破壊的変更はなく、7.1でのRTC再導入を待つか、外部ライブラリでの独自実装を検討する段階だ。

参考リンク:

注意事項: WP Engine訴訟とRTC削除の直接的な因果関係は確認されていない。Matt Mullenweg の声明に訴訟への言及があったことは事実だが、技術的欠陥(レースコンディション、ファズテストバグ)が主因とみる識者が多い。WordPress 7.1 でのRTC再導入はコミュニティからの要望であり、確約ではない。